「天災は忘れた頃にやってくる」
この有名な言葉を知っている方も多いと思いますが、いったい誰の言葉か知っている人はあまりいないのではないでしょうか。
「天災は忘れた頃にやってくる」というこの言葉は、夏目漱石の弟子として知られる科学者、寺田寅彦(1878~1935)の言葉です。寺田は大学教授であり、物理学の権威として活動しているかたわら文学の才能もいかんなく発揮する多才な人物でした。彼が45才の時、1923年にあの関東大震災が首都圏を襲い、建物の倒壊や激しい火災などによって大勢の死傷者が出ることとなったのです。寺田はその被害惨状を目の当たりにし衝撃を受け、執念ともいえるほど関東大震災の被害調査に熱心に携わり、その後の日本における防災の礎を築いた人物なのです。
寺田が著書などでよくとりあげていた言葉で「正しくものごとを恐れる」というものがあります。人間はあるものごとについて怖がり過ぎたり、逆に過小評価して怖がらなさすぎたりしてしまう。正しくものごとを判断し、正当にものごとを恐れることは以外に困難である、という意味です。
東日本大震災のときも原発事故に端を発した放射能問題について風説もあいまって人々が正しく事実を判断することは困難でしたし、熊本地震においても九州ではほとんど大きな地震は起きないと思われていたことから人々の防災意識はそれほど高くなかったように思われます。 社会が成熟して文明が発展すればするほど、自然災害による被害は比例的に増幅していく、阪神大震災しかり、東日本大震災しかり、熊本地震しかり、寺田は日本の未来について驚くほど鮮明に想像出来ていたといえるでしょう。
いかがでしょうか?東日本大震災から丸7年、熊本地震から丸2年、人々の心の中では徐々にそれら未曽有の震災の記憶が風化しつつあるのではないでしょうか?「天災は忘れた頃にやってくる」、寺田のこの言葉をしっかりと忘れずに我々は「正しく恐れる」ようにするべきではないでしょうか?正しくリスクを把握したうえで予算に応じて耐震や制震など地震対策を講じることが重要です。